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山岸涼子『舞姫~テレプシコーラ』を読む

山岸涼子『舞姫~テレプシコーラ』を読む_b0065128_11201613.jpgやっと10巻まで読みました。

それでもって他にもレビューを書いていない本があるのに、このレビューだけは書かずにはいられない。
そのぐらいの作品でした。

こんな風に、読者を知らず知らずの間に、物語の中へ巻き込んで客観的視点を失わさせる、そんな作品もびっくりでした。
読んでいて、思わず「え!!!」と声をあげて驚愕した作品は久しぶりです。


10巻までで第1部完です。
今年の秋から第2部連載開始のようです。

以下ネタバレです。
wikiなどでも第1部の顛末は書かれていますが、是非ご自身で読んでから読まれることをオススメします。



・話の大筋としてはここを参照してください。

・ということで本論。
既読ということを前提にして話をします。
最近かなりの漫画の量を読んでいると思うのですが、10巻まで読んで、千花ちゃんの自殺は予想していなかったのです。
けれども読み返してみると、彼女が自殺するに足る理由は伏線が点々と張られていて、
「そりゃ死にたくもなるだろう」
と納得してしまう。

けれども初読の時点ではそんなことは露も考えさせない。
それが非常にショックなのだ。
彼女の祖母が倒れたときに、「バレエをもう一度やる」ということを彼女は言葉にするのだが、
その時彼女が不死鳥のようによみがえって、またバレエを踊っているところを読者はみんな想像するのだ。
そして彼女の一番身近にいる家族達もそれを期待し、願っている。
そしてまた読者も千花ちゃんの家族と同じように、期待してしまう。
そのことが非常に、この話を読むものとして後味が悪い。
10巻まで読んで、その後1巻から読み返してみると、彼女の気持ちに気づけなかったということから、彼女の死に自らも加担していたという気持ちにさせられるからだ。

彼女の人生は本当に辛い。
彼女からバレエをとってしまったら、何も残らないかのように、教え込まれてしまった。
客観的に考えれば、彼女は頭もいいし、バレエで培った、強靭な精神力がある。
だからバレエ以外の人生を選択する事だって充分にできたはずだ。
なのに、彼女は死んでしまう。
それは学校でのイジメ、靭帯の手術の失敗、そんなものに置き換えて考えることはできない。

掲載紙の「ダヴィンチ」を読んでいる年齢層や山岸涼子のファン層を考えれば、千花ちゃんの立場から読むのではなく、どちらかというとお母さんの立場から読むということなんだろうと思う。
私も千花ちゃんの立場ではなく周りのギャラリーとしての立場としてこの話を読んでいたんだと思う。
彼女の母は理知的だ。
彼女の死を「イジメ」や「医療ミス」のせいにするわけではない。
普通の親だったら娘をイジメた子を殺してやりたいと思うかもしれないし、気が狂ってしまうのではないかと思う。
これが自分の立場だったらと思うとぞっとする。
この結末をどう受け止めればいいのだろうと先が真っ暗になってしまうだろう。
様々に努力した結果、残ったものは

 ぬぐわれない悲しみ
 膨大な借金(靭帯の手術代として海外で手術したため5000万かかっているのだ)
 そして償いきれない罪である。

その点、六花(ゆき)ちゃんはまだ子供という点で救われたのかもしれない。
けれども、今後第2部がどういう展開になってゆくのだろうと予想をすると非常に怖いのである。

・六花ちゃんはあのまま篠原家にいることができるのだろうか?
姉の影が色濃く残る、家にいることは彼女にとって辛いことなのではないだろうか?

・そして母の期待、周囲の期待、そういったものを全て彼女が背負うことになるのである。
彼女は姉への純粋な想いから、トゥオネラの白鳥を踊るが、それをきっかけに周囲は彼女を一心に期待しを寄せるようになるのではないだろうか。
千花ちゃんに向けられていたものが全て、妹の六花ちゃんにベクトルが向かうことになるのだ。
これは悲惨だ。

・そして彼女は留学するのか?
それは「逃げ」であるような気もする。
だけれども私は「逃げてもいいじゃないか」と思ってしまうのだ。
千花ちゃんは「お医者になろうかな」と言ったときに、母親にそれは「逃げ」だと言われる。
追い詰められた彼女にとっては万策尽きてしまったのに…と本当に辛くなるのだ。
「私はバレリーナになるしか道はないのか?」
と六花ちゃんに言って泣いた彼女の姿が目に焼きついて離れない。
だから六花ちゃんには逃げてもいいのだ、と言ってあげたくなるのだ。
けれども「留学」することでの逃げはどう運ぶのだろうか?
恐らくいい方向へ向く可能性は低い。
だからこそ辛い、この話の結末を見届けるのが非常に辛いのである。

・空美ちゃんは今後登場するんでしょうか?
話の序盤であれだけ色濃く登場させておいて、あれで終わりということはないだろうと思う。
彼女がどういった形で物語に戻ってくるのか、それが非常に興味深いところだと思う。


これから先は余談なんですが、
個人的な話として、私の姪が新体操を小さい頃からやってるんです。
そして私の姉が子供の新体操にかける情熱と言ったら、世間一般からみたら尋常ではない域に達しているとは思います。
そして身内の色眼鏡なしに、彼女は才能もあり、努力もでき、そして精神的強さもあると思う。
だからこそ、この話を読んで非常に怖くなった。
取り返しのつかない何かが起こってしまったときに、姉の家族はどうなってしまうのだろうと思うのだ。
姉はもともと精神的にそこまで強くはないと思う。
子供の新体操にかける情熱が姉の精神を支えているような気がしてしまうからだ。
だからこそその支柱が折れてしまったときに、どうやって生きていけばいいのだろうと非常に不安に思うのである。

さらっと描いているのに、中身はこんなに重いテーマを扱っている作品に触れるのは久しぶりです。

是非、大人に読んでもらいたい、そういう作品だと思います。

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by rui-hadsuki | 2007-09-14 11:20 | books | Comments(2)
Commented by 木曽のあばら屋 at 2007-09-14 21:23 x
こんにちは。
「ダ・ヴィンチ」の連載で2~3年前から読んでいたのですが、単行本は未読です。
読みたくなりました。でも、全10巻ですか・・・。
もうすぐ第2部の連載が開始されるのですね。
Commented by rui-hadsuki at 2007-09-18 00:57
木曽のあばら屋さま
こんにちわ!コメントありがとうございます。
結構量があるように感じるかもしれないですけど、以外とすぐに読めます。個人的には8巻以降の展開が辛過ぎて…。
去年手塚治虫文化賞を受賞しているので、もう少し待つと古本にもちょこちょこ出てくるかもしれないです。
ダヴィンチの連載では、来月分に予告は載ってなかったようなので、早くて再来月という感じなのでしょうか。
時間軸でどこから第2部が始まるのか、というのが興味があります。
個人的には、お子さんに何か習い事を本気でさせている親御さんには是非一読して欲しい作品だと思ってます。
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