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一色まこと『ピアノの森』を読む

一色まこと『ピアノの森』を読む_b0065128_11222323.jpgいや、以前から読もう読もうとは思っていたんです。
ですが、なんとなく手に取れないままで、今日に至ってしまいました。

一色まことさんの作品は『花田少年史』でもちょっと泣いたんですが、
『ピアノの森』でも泣かせてくれます。






・ということで、これは一ノ瀬海という天才(神童)の物語です。
なんというか音楽をやるものの現実とかそういう話を余り持って来ないところが、のだめとは違うところなのかなぁ。
いや、どっちにしても私は天才の話はものすごく好きなんです。
なんだけどこの話の雰囲気の重要なところは漫画特有の「添加物」がないということなんだろうと思う。
ポテトチップスじゃなくて、ご飯と味噌汁みたいな。
みんながもう描けなくなってしまったようなものを描いてるのが今、ウケるのかなぁなんて思ったり。

・この物語の魅力は主人公の一ノ瀬海(イチノセ カイ)の純朴さだと思う。
「木の端」という娼婦やチンピラがたむろうような、世間的にみたら劣悪な環境で育ったにも関わらず、それに付随するような暗さが全然見えない。
彼は本当に純粋で、ただただ自分がピアノを弾きたいという衝動だけでいろんなことに突き動かされている。
カイが阿字野先生と朝食を食べながら、「ピアノを教えて欲しい」と正座していうシーンは本当にジーンときてしまった。

・そして対する「秀才」雨宮修平というキャラクター。
カイに対しての修平というキャラクターは、読者が感情移入しやすいキャラクターなんだと思う。
ピアノだけの生活に、他のもの全てに対して我慢してきたという人生。
コンクールで認められる演奏はできるけれど、人の心を揺り動かすようなカイのような演奏はできない。
そういう「個性」や「自分らしさ」というものが見つからなくて迷い、悩むというキャラクター。
だけれども、「勝負」に対しての姿勢はものすごく潔い。
カイに対しての羨望や、嫉妬や、いろんなもやもやがあっても、それがドロドロとした部分ではなくて、それを結局自分自身の問題として自分自身と、そしてカイと向き合っている。
そういった描き方がすごく好感が持てるんだと思う。

・少ないページで多くを語るという技法がすごいと思う。
雨宮くんがカイのピアノから「逃げるように」留学して五年。
その五年間は空白の期間として、作品の中で描かれることはない。
阿字野先生とカイが扮するピエロのピアノにとり憑かれ、自分らしさを見つけられず、スランプに陥る修平。
そしてカイに会わなければこの呪縛から逃れられることはできないと悟った、修平がカイへ会いに行くシーンがあります。
そこで、修平の目からカイの五年間が映し出されます。
有名な進学校へ特待生として通っていること。
ストリップクラブで女装をしてピアノを弾いているということ。
そしてその彼の「努力」は語られることなく、
朝にカイがピアニッシモで練習していたハノンのアルペジオ。
そして、家の壁や床一面に書かれた勉強の痕などによって、カイの五年が伝わってくる。
8巻ではやっと最後に阿字野先生とのレッスンがほんの少し描かれるが、
出稼ぎで東京へ行って、レッスンに間に合わなかった時に
「一度もレッスンをさぼったことなかったのに」
というカイのモノローグから
彼と阿字野先生との絆がこんなにも強くなっていたのかということにまた驚きと、感動を覚えたりするんだと思う。
アジノ先生とカイの関係ももちろんなんですが、私は修平と父、洋一郎との関係もすごく好きだったりします。
普通の父親はこういう風にただ見守って、そして「ガンバレ」と送り出してやることしかできない。でもそこにすごく強い絆を感じるんでしょうか。

・それからこの話はコンクールの話を中心に書かれていて、所謂王道を行く話です(今の所)
でも、コンクールに関してはミラクルが起こったりとかはしないし。(カイがソリスト賞をとったのも、想定外の話ではなくて、きちんと設定されていたというものだからミラクルというわけではないと思う)
それは、変更できるものと変更できないものがあるということもタカコの事を通してきっちり書かれている。
今現在ではショパンコンクールのことを中心に書かれてますが、どこまで続くんでしょうか。

・というか先週14巻が発売されましたね。
ここでカイが阿字野先生との関係を5年前は強がっていて、「男と男の契約」なんて言って先生との関係もショパンコンクールが終わるまでということになってたけれども、今となっては阿字野先生と一緒にいたいと思っているというモノローグがあったとき、カイも成長したんだなぁとか感じたりして、なんともいえない気分になりましたよ。

ということで、これからも期待大です。
映画化も決定してますが、これはモーツァルトまでだし、あんまり話も進んでないんで、どうなんだろうなぁというのが本音だったりします。
でもマッドハウス制作だし、観にいっちゃうんだろうなぁ…。
しかも音楽関係でアシュケナージが関わってるそうな…。
すげーよ。すごいですよ、これ。ピアノの演奏部分をアシュケナージがやったりするっていうことなんでしょうか??
うーん、興味ありますねぇ。

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by rui-hadsuki | 2007-06-24 10:03 | books | Comments(0)
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