山岸涼子『天人唐草』を読む

b0065128_1262793.jpg山岸涼子『天人唐草』を読む。

『テレプシコーラ』を読んだときにも感じたのですが、、
こういうどうしようもない逃れられない悲しみってどこにやればいいんでしょうかね。
そんな気持ちにさせられる話です。

がっつりネタバレあります。




・いやー、久しぶりにずどーんと来た話でした。
なんか救いようがないくらいの絶望、逃れられない運命みたいな。
どうしてこうなっちゃったんでしょうかというやり切れなさばかりが残る作品ですね。

・話の概要は
発狂した女が空港にいる場面から物語が始まります。
主人公の響子は厳格で封建的な父に育てられ、控えめでおとなしい女になるように躾けられます。
ことに「性に関することについては時代遅れなほど厳し」く育てられます。
ある日、響子は小さな青い花(イヌフグリ(「犬の陰嚢」の意))を見つけ友人に、花の名前を聞くと、
女の子の友達はみな妙な反応を見せ、意味を教えてくれようとしない。
家へ戻って、その事を話すと、父には「女の子がそんな言葉を口に出すもんじゃない!」
と怒鳴られ、母からは「天人唐草」との別名を言うように差し向けられるのだ。
そうして父から怒鳴られた経験は、衝撃的で、父親の呪縛にその瞬間から縛られてしまったと考えて良いのだろう。
そして話は流れ、流れて、響子は公務員になって働くようになり、ふとした瞬間に呪縛から逃れるような新しい発見、自我の目覚めのようなものを感じるが、その度に父の発言によって引き戻されてしまう。
そして話のラストはひどいもので、
母親が死に、そして父が死に、父に愛人がいたことがわかる。
愛人がいたという事実よりも、むしろその女が父親が常にこういう女にはなるなといい続けてきた女そのものだったのが衝撃だったのだろう。
追い討ちをかけるように弱く打ちひしがれる響子は見知らぬ男に強姦されるのだ。
そして最初の場面へ戻る。
とそんな感じの概要です。

・悲劇の演劇を見ているような感覚。
シェイクスピアの悲劇を見てるような感覚とでもいうんでしょうかね。
ここの登場する父親は日常から、常に厳格な父親という演技をして、でも狡猾ことに本当のこともまた知っているのだ。
その狡猾さのようなものを娘は教えられることなく、ただひたすら囲われ、囲われた責任を果たされることもなく、発狂するに至ってしまったという印象が残りました。
なんというか…悲しいなぁ。
この物語って誰が悪いという風に決め付けられない問題があるような気がするんですよね。

・何が悪いのか?
個人なのか、実態の見えないが確かに存在しているように見える「世間」というものなのか。
うーん、私はその世間の存在に打ち負かされてしまった個人の弱さ、なんだと思うんですけどね。
父親の家父長制を必死に保とうとしている厳格さ(それは見得にも似ている)も、彼女の父親に従わなければという必死な気持ちもそれに値するんだろうと思う。
どこでどう歪んでしまったのか、現代にもこういう考えってまだ根強いんだと思うんですよね。
ここまで封建的な家は少なくなったのかもしれないですが、高学歴主義はまだまだ実際に残っていたりするし、男尊女卑の風潮もなくなったとはいえない。
社会性を持つということと世間体は別の性質のものだ。
彼女の父親の持つ考えは世間体を守ることで、普遍性のある「正しい」ものではなかった。
時の流れに逆行するようにその教えを忠実に守った娘はこういう末路をたどってしまうんですな。
まぁ、ある意味すごく昼ドラになりそうなくらい極端ですけどね。

・名は二つ、一方では美しく、他方は醜い。
イヌフグリという名称。一般的にはこちらのほうがよく使われると思うんですけどね。
いや、そんなことなくて、美しいも醜いもないはずなんですけどね。
その言葉に卑猥な連想をしてしまうその考えこそがきっと醜さなんだろうと思う。
そこに精神的な考えが入り込まなければそれはただの「モノ」だ。
娘を怒鳴りつけたときに、精神的な考えが入り込まない「モノ」としての教え方が出来なかった、その時からこの結末は見えているようなものだったのかもしれないですね。
人はこの花のようにどちらも併せ持っているから魅力があるのであって、
完璧な人間なんてあまり面白みもないですよ、と登場人物の一人も言ってましたね。
寓話としての教訓はこういうことなんだと思います。
うーん、それにしてもなんつーか…。
いろいろとつらいなー、ホントつらいなー、という気分にさせられる作品でした。

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by rui-hadsuki | 2009-02-05 16:11 | books
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